弁護士コラム

居場所のない子どもから見た風景

弁護士 土居 聡

全国に,居場所のない子どもが増えています。虐待等による家庭環境の乱れによって,家庭に居場所がなくなる・・・ひどい時には子どもの虐待死が報じられます。そのような現状を打開すべく,居場所のない子どもに居場所を与え,一緒に寄り添って歩いて行こうとする取り組みが始まっています。子どもシェルターの開設が,その取り組みの1つです。

今回のコラムは,居場所のない子どもの視点から描いたストーリーになっています。子どもシェルターについてご存じない方は,ぜひこの機会に子どもシェルターについて考えてみてください。

1 僕は今,児童相談所にいる。一時保護所っていうらしい。僕と同じ立場の子ども25人が,ここで集団生活を送っている。定員は20人らしいから,25人も居たらぱんぱんだ。窮屈で仕方がない。狭くてもいいから個室があればいいと思うけど,ここにはない。
 しかも,僕は自閉症という障がいを持っている。人と話すのが苦手だし,他人の気持ちがよく理解できない。だから,集団生活が苦手。でも出られない・・・。
 僕はここで,職員さんのいないところで僕を虐めてくる奴や,僕のことを馬鹿にして罵ってくる奴と一緒に毎日を過ごしている。もう2週間もこの生活。いい加減,家に帰りたくなってくる。でも,偉い人が言うには,僕は家に戻っちゃだめなんだって。

2 僕は,高校1年生。何でこんなところにいるかというと,お母さんに虐待されたから。難しい言葉では,「児童相談所で一時保護する」っていうんだって。さっき,担当のお姉さんが教えてくれた。
 お母さんはよく僕を叩いたり,蹴ったりしている。僕の身体は痣だらけ。お母さんは,きっと,僕の言動にイライラしてるんだと思う。僕にはお父さんがいないから,お母さんが一人で僕を育てようとして,無理してることを知っている。だから,叩かれたり,蹴られたりするのも仕方がないと思ってる。僕は人と話すのが苦手だからバイトもできないし,お母さんを助けることができないから。
 僕は,ずっと,僕が悪いからお母さんが僕を叩くんだって思ってた。

3 ある日,児童相談所の担当のお姉さんと面接があった。いつもと様子が違うなぁって思ってたら,お姉さんが「もっと人が少ないところで生活したい?」って聞いてきた。「うん!」,即答した。
 お姉さんが言うには,最近,近くに,子ども用のシェルターができたらしい。シェルター・・・?何か,核爆弾から身を守れ!みたいなノリなのかな。あんまり大げさにしてほしくないし,よくわからなかったけど,人付き合いが苦手な僕は,ここよりマシだと思って,行くことにした。

4 その日のうちに,弁護士さんがやってきた。またまたお姉さん。名刺を見せてくれたけど,名字はよく覚えてない。確か,何とかあおいさん。若くて優しそうな人で可愛かった。お姉さんに,シェルターに入りたいか確認された。僕は速攻で頷いた。お姉さんが担当になって寄り添ってくれるっていうからさ。これは難しい言葉で,「シェルターに措置する」っていうんだって。これから僕は,もうひとりぼっちじゃないんだ。
 そのまま,お姉さんの車に乗って,一緒にシェルターに行った。車の中で僕の持ってた携帯電話をお姉さんに渡した。お姉さんは電源を切ってバッグに入れてた。大丈夫かな?後から変な請求書が届いたりしないかな?不安だったけど,お姉さんは可愛いし弁護士さんだから信用することにした。
 いよいよシェルターに着いた。僕は頑丈な造りを想像してたんだけど・・・普通の民家だった。「ただの一軒家やん」って言葉に出して言ってしまったぐらい。周りにもいろんな人が住んでた。僕は人と関わるのが苦手だけど大丈夫かな?えっ,住所?住所は言っちゃいけないんだって。お母さんが押しかけてくるかもしれないから。こんな普通の一軒家にお母さんが押しかけてきたら,それこそ逃げ場がないしね。

5 その家に入ると,お姉さんのほかに,もう一人弁護士さんがいた。2人して,僕がシェルターに入りたいかどうかを確認してきた。僕はもちろん,「うん」って言ったよ。2人は,ニッコリ笑って,じゃあここに名前書いてって書類を渡してきたから,名前を書いた。入居申込書だって。弁護士さん2人もサインしてくれてた。僕の入居を確認した証拠になるんだって。
 ここには,僕の他にも,2人の子どもがシェルターに入ってた。彼らもお父さんやお母さんから叩かれてたのかな?定員6名らしく,個室が6室もあった。好きな部屋選んで良いよと言われたから,あったかい部屋にした。家は寒かったからね。
 その後,シェルターの職員さんが僕にあれこれ質問してきた。好きな物,嫌いな物,アレルギーがある物,されたら嫌なこと・・・。こんなに人と喋ったの初めて。喋るのが苦手だから大変だった。でも,職員さんは僕を急かさずに,「ゆっくりでいいからね」って言ってくれたから,何とか大丈夫だった。職員さんは,1枚の紙を僕に見せてくれた。僕がされたら嫌なことがあるのと同じように,他の子にもそれがあるから,この約束だけは守ってねって言われた。あんまり覚えてないけど,当たり前のことが書かれてたよ。勝手に出て行くなとか,禁酒・禁煙とか,朝8時に起きて夜11時に寝るとか,他の子の部屋に入るなとか・・・。当たり前だよね。じょーしき,じょーしき。
 びっくりしたのは,お小遣いをくれること。毎月3000円・・・初めてだよ,自分のお金。何買えばいいんかな。今までもらったことないから,3000円で何が買えるかもよくわかんないや。

6 シェルターに来た日から,僕の生活は一変した。だって,温かいご飯が勝手に出てくるし,ご飯を食べてる間,シェルターで働いてる職員さんが話し相手になってくれるんだもん。話すのが苦手な僕のペースに合わせてくれるからとっても楽。嫌なことはされないし,好きなことしてゆっくりしてればいいよって言ってくれるから,すっごく居心地もよかった。TVも観ていいし,DVDも観ていいし,何よりお風呂も毎日入れるんだって。いいの?僕が望めば,お菓子作りとか,ご飯の作り方を教えてくれるんだって。習っとこうかな,お母さんに作ってあげたいし・・・。
 そういえば,僕がここへ入ってすぐに,僕を担当してくれてる弁護士のお姉さんが,僕のお母さんに連絡をしてくれたみたい。お母さんは気が狂うほどに怒ってたってさ。そりゃそうだよね,児童相談所で保護されるってことだけでも怒り心頭だったんだから。まったく知らない場所に変わって,しかもその住所を教えられないっていうんだからね。自分の子どもが誘拐されたみたいになってるんだって。僕もそんな気がしてきた・・・。でも,お姉さんにそれは違うよって言われた。お姉さんが言うには,僕は自分がここに住みたいからここに来たんだって言われた。そういえば,入居申込書ってやつ書いたな。そっか,僕は自分の意思でここに来たんだった。誘拐されたわけじゃないや。お母さんは,そのほかにも,「弁護士なんかが入ってお金はどうするの!」って怒ってたらしい。でも大丈夫。僕にもお母さんにも,弁護士費用はかからないんだって。すごいね。やっぱり弁護士さんってお金持ちなんだ。お姉さんは,笑いながら,「違うよ,別のところからもらってるの」って言ってた。足長おじさんとかタイガーマスクみたいな人がいるのかな?

7 僕が外に出る日は,必ずシェルターの職員さんが付いてきてくれた。買い物をするにも,散歩するにも,何をするにも。まだ一人では出ちゃダメなんだって。確かに,僕のお母さんが探しに来るかもしれないしね。知らない町だから迷っちゃうかもしれないし。
 シェルターに帰る途中で,職員さんがパフェを奢ってくれた。こんなところで甘い物を食べるなんて初めて。ちょびっと涙が出た。職員さんは普通だよっていうけど,普通の暮らしがどんなものか,そのころの僕にはわかってなかったんだ。
 夜は夜で,職員さんが寝泊まりしてくれてた。部屋は別だったけどね。寝付けない夜は,夜11時の就寝時間を過ぎても相手してくれた。「特別だよ」っていう言葉が嬉しかった。お腹がすいたらご飯も作ってくれた,嫌な顔一つせずにだよ。できる?熱が出た時は病院に連れてってくれた。弁護士のお姉さんも駆けつけてくれた。こんなにたくさんの人から心配されたことなんてないよ。何と!病院代も負担しなくていいんだって。よかった。今までは,お母さんに我慢しなさいって言われて病院なんか行ったことなかったよ。

8 シェルターに来て,2か月が経った。僕は,今までと180度ぐらい違う生活をして,普通の生活ってこんなに楽しいんだと感じてた。この2か月間,シェルターの職員さんはもちろん,弁護士のお姉さんがよく遊びにきてくれたから,全然寂しくなかったし,一緒にいろいろ考えてくれた。勉強も1対1で教えてくれたから,学校にいるより勉強できた。ホント,こんな経験したことないよ。
 職員さんやお姉さんと話をしてて,僕も職員さんや弁護士さんみたいになりたくなった。どっちも難しい試験を受けなきゃいけないのかな?とりあえず,まずは大学生を目指そうかな。まだ高校1年生だから早いけど,お姉さんが一緒に考えてくれたから,目標ができた。一番の難問はお母さんだったけど,お姉さんが説得してくれた。若いのにやるぅ~。お母さん,最後は泣いてたって。本当は,僕を殴ったり蹴ったりしてたことを後悔してたみたい。でも,止められなかったんだって。お姉さんが頑張って話をしてくれたから,お母さんも一からやり直してみることにしたって聞いた。これからは,積極的に児童相談所とか,民生委員さんとかと相談しながら,僕と2人で生活していきたいって言ってるみたいだよ。
 僕はと言うと・・・お姉さんに会えなくなるのはとても寂しいし,職員さんたちのご飯が食べられなくなるのも悲しい。僕のために,こっそり楽しい思い出をたくさん作ってくれたんだもん。でも,それ以上に,またお母さんと生活できることが嬉しいんだ。もちろん,前のお母さんじゃなくて,お姉さんが説得して変わったお母さんとね。不安がないと言えば嘘になるけど,困ったことがあったらお姉さんが相談に乗ってくれるっていうからホッとした。名刺ももらったし,そこに番号が書いてあるっていうから・・・事務所の電話番号しか載ってなかったけどね。携帯持ってないのかな?

9 お姉さんの話では,僕みたいな子が全国に5万人以上もいるんだって。僕みたいな子どもは,ほとんどが児童養護施設とか児童相談所の一時保護所で集団生活を送ってるらしい。あそこに戻るのだけは,ホントやだ。狭いし,集団生活だし,嫌なことをする奴がいるし,話し相手もいないし,ご飯もおいしくないし・・・子ども用のシェルターがいっぱいあればいいのにね。必要があるのに何でできないんだろ。まだ全国に7箇所しかないんだって。ホント遅れてる。今,和歌山,大阪,札幌なんかで子ども用のシェルターを作る計画が進んでるんだって。早くできて欲しいな。でも,シェルターを運営するお金がなくて困ってるみたい。大きな企業なんかが毎年たくさんの寄付をしてくれると助かるのにね。必要なところにお金がいってないって意味がようやく分かったよ。
 子ども用のシェルターが近くにあった僕は,ホントにラッキーだったんだね。僕は,今回の件でひとりぼっちじゃないんだってわかったし,一緒に寄り添ってくれる人をようやく見つけたんだ。お母さんもそうだけど,これから僕たちに寄り添っていってくれる人がいるってホント大きいよ。

最後に、全国7箇所にある子ども用のシェルターのホームページを紹介しとくね。

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